高知地方裁判所 昭和52年(わ)466号 決定 1978年3月31日
少年 M・O(昭三三・九・一生)
主文
本件を高知家庭裁判所に移送する。
理由
本件は、被告人が普通乗用自動車を運転中、交差点の信号機の表示に注意して進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、赤色信号を看過して交差点に進入した過失により、交差道路を青色信号に従つて進行してきた普通乗用自動車と衝突し、その運転者と同乗者二名にそれぞれ六か月ないし七か月の傷害を負わせたというもので、被告人の過失の程度は大きいし、被害の結果もまた重く、現在においても示談が整つていないことを考えると、被告人の刑責は軽くなく、被告人に対し自由刑をもつて処断するのも一理なしとしない。しかしながら、事故後、被告人をはじめ両親や姉が被害者の見舞いに何十回も訪れ、その間休業損害、治療費等を確実に支払い、これまで被害者三名に対しては、保険によるものを含めて合計一、二〇〇万円位が支払われ、被害者に対しては相当誠意をつくしていることが認められる。本件事故は、中学校時代の同級生と遊びに行つての帰途、同人らと話しに夢中になつて信号機の表示に気付くのが遅れたために生じたものであるが、もとより無免許とか酒酔い、速度違反等を伴つているわけではなく、本件直前の一時を除けば乱暴な運転や危険な運転がなされていた形跡はなく、運転歴はわずかではあるが、普段の運転態度にも格別問題視すべき点は見当らない。被告人は、本件事故の三週間前に高校を卒業し、すぐ○○郵便局の臨時職員に採用されて外勤の仕事に従事しているものであり、正職員になるため真面目に勤務し、かつ勉強していることは上司の証言によつても明らかである。これらの事情のほか、被告人には前科前歴がないこと、両親の指導監督が十分期待できること、改悛の情が顕著であること等被告人に有利な諸般の事情を考量するとき、被告人に対して刑事上の制裁を加え、かけがえのない職場を失わしめるよりは、家庭裁判所において保護処分(保護観察)に付するのが相当であると判断される。
よつて少年法五五条に則り主文のとおり決定をする。
(裁判官 田尾健二郎)